「ヒース! 無事だったんですね!!」
橙色の髪を膨らませ、少女はヒースクリフを目掛けて一直線に駆けてくる。その勢いのまま彼の胸に飛び込む光景はさながら感動の再会を映した映画のワンシーンのようだった。
しかし飛びつかれた本人はいきなりの衝撃に耐えられずそのまま後ろへバランスを崩して尻もちをついた。その両腕に抱えられた少女ごと、二人はそろって床へ転がる。
「おい、ヒース」
その一部始終を見ていたカインが慌てて手を差し伸べようとするも少女はまだヒースクリフの上に乗っている。いくらなんでも初対面の女性──況してやヒースクリフの知り合いであろう彼女──に触れることに躊躇いを覚え、行き場を失った手が宙を彷徨う。賢者に至っては声も出せずにぽかんと目の前の光景を見つめていた。
「エ、エッタ……?」
「ヒース……! 良かったぁ……」
下敷きになったヒースクリフが少女を見て口を開けば、その声が耳に届いたのか湖面の色を宿した瞳がぱぁっと輝いた。しかし彼の上から退くという考えには至らないようで、背中から倒れた彼の腹あたりに馬乗りになりながら言葉を続ける。
「ほんっとうに心配したんですからね!? 買い出しから帰ってきたら魔法舎は燃えてるし周りには兵隊が沢山いるし!!」
「う、うん。ごめん、心配かけて」
身動きのとれないヒースクリフはそれでも無理に少女を退かそうとはしない。そんな二人の方へカツカツと急ぎ足で近付いてくる足音がある。
「おいエッタ、飛びつくな。ヒースがお前の重みで潰れる」
「きゃっ!」
先程召喚されたばかりの魔法使いのひとりである少年は黒のマントを翻して二人の傍で足を止めた。そうして少女の首根っこを掴み、ぺいっとまるで猫にするような気軽さで引き剥がす。
「シノ!? なぜ此処にいるんですか!」
遠慮ない少年の腕によって床に放られた少女は身軽な動きで受け身をとる。自分を放り飛ばした犯人を視界に入れて眦をつり上げた。
「俺か? 選ばれたからだ。賢者の魔法使いに」
「なっ──」
「エッタ、賢者様の前だよ」
「え!? あっ失礼しました……!」
得意げに鼻を鳴らして答える彼に何か言い返そうとしたところで起き上がったヒースクリフに窘められる。その言葉で初めて賢者の存在に気付いたらしい、エッタと呼ばれた少女は背筋を正して直立不動の姿勢をとった。そして賢者の方を振り返って姿を認めるとすました顔に微笑みを浮かべて一礼する。
「初めまして、賢者様。わたくし、ブランシェット家に仕えておりますアリエッタと申します!」
First impression
