「お、はようございます……?」
「おー」
朝の陽射しが差し込む厨房、いつも通り朝食の支度をするために足を踏み入れたそこには昨日までにはない人影があった。神々しさすら感じられる陽光を浴びて佇むそのひとは昨日新しく召喚されたばかりの魔法使いのひとりだ。
「え、と……」
昨日顔合わせをしたがそれも魔法使いの中でのこと、それを横から見ていただけの自分は全員の名前なんて覚えられていない。どう話し掛ければ良いか迷っているうちに相手から助け舟が出された。
「ネロだよ。東の魔法使いだ」
あぁ、と合点がいく。どおりで話しやすそうな雰囲気だと思った。その国の素質というものだろうか、彼から滲み出るそれがどこかヒースクリフのものに似ていた。
「失礼しました。わたくしは──」
「知ってるよ。あんた、ここの人間って訳じゃないんだろ。確かヒースクリフの従者だって」
彼に向かって自己紹介した覚えはないがどこかで知ったのだろう。ええ、と頷いて辺りを見渡す。調理器具が広げられている光景。
「その通りです。ここに勤めているわけではありませんが、魔法舎の雑事をしています。あの、ネロ様はなぜこちらに……?」
そんな問い掛けに対して、彼は不味いものを口にしたかのように口元を歪めた。顔を顰め、ウンザリしたと言わんばかりに口を開く。
「様付けは止めてくれよ。オレはそんな育ちじゃない。昨日、朝食当番をしろって西の奴に言われてな」
そう言われれば、と昨日の顔合わせの会話が蘇ってくる。たしか彼は東の国で料理屋を営んでいたのだと言う。どんな料理を作るのか気になるし、なんならぜひ教えてほしいと思うのだが、そこはぐっと堪えて笑顔を作った。
「ですが、昨日来たばかりでお疲れでしょうし、今日はわたくしにお任せください」
「あんたひとりで全員の分をするって? 大変だろ、手伝ってやるよ」
第一印象では東の国の魔法使いらしく人と関わるのが嫌いかと思ったがそういう訳でもなさそうだ。無理強いもせず恩着せがましくもない物言いを見ていると、むしろ相手と適度に距離を保つことは得意なのではないだろうか。
「あ、ありがとうございます!」
彼の厚意を頑なに断る理由はない。素直に頭を下げてお礼を述べると、小麦の色をした瞳が柔らかく細められた。
「……どーいたしまして」
「……!」
感謝しているのはこちらなのに、言われた相手が嬉しそうに笑うものだから思わず息を呑んだ。何気ない一言をとても大切で価値のある言葉に変えるような、そんな魔法なのかもしれない。
「ところであんた、いつもそんな喋り方してんのか?」
「え?! いや、いやいや……第一印象は大事ですし、ある程度は繕って立ち向かってるといいますか……」
「なんだそりゃ」
Good morning , coworker
