魔法使いの約束

魔法使いの約束

「あなたの話を聞かせて」

なんでもない夜だった。少なくともアリエッタにとっては。彼女はそのとき、五カ国和平会議に併催される昼食会の準備をしていた。国に合わせた食事や調度品の手配をすることは難しくも楽しく、今後の自分の糧となる非常に良い勉強だった。それなのにたった当日...
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心のさすほうへ

「何日かかると思ってる。しかも一人で何かあったらどうする気だ」私用のためブランシェット城に戻ろうとしたアリエッタは、アーサーが勧めてくれたエレベーターの利用を丁重に断り馬車を乗り継いでいこうとしていたので、ヒースクリフとシノの二人が慌てて止...
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いつか誰かの蜂蜜色

(ファウスト視点)「なんで食べちゃったんですか! シノ!」魔法舎の廊下、ファウストに届いた怒声はたまたま開け放たれていた窓の外からだった。誰かが開けっ放しにした窓からは涼風が夏の名残とともに溌剌とした声を運ぶ。何処に行くでもなかった彼は窓際...
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present for

(幼少期)(アリエッタの誕生日)誕生日というのは幼いアリエッタにとってそれはもう特別な一日だ。普段より美味しいものを、たとえば自分がリクエストしたフルーツたっぷりのケーキを食べたりして。父親はいつもであれば叱られるほどはしゃぐ彼女に目を瞑り...
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ピンチ

(アリエッタ視点)「シノ……!大丈夫ですか……?!」今回、東の魔法使い達に任されたのは簡単な任務だったはずだ。それこそ、アリエッタがついていくのを許されるくらいには安全なものだと。だが実際に調査が始まってみると予想外のこと続きで、結果シノと...
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Mailbox

(カイン)魔法舎の生活において、アリエッタには朝食の支度をするより先にすべき一つの日課があった。今朝も例に漏れず、部屋から出てまず正門に向かい設置されたポストを覗き込む。ときどき入っている郵便物の中に主君宛のものがあればそれを抜き取って送り...
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埋葬された夢

シノは長く続く石畳の階段を上がっていく。ブーツと硬い床がぶつかってカツカツと音を立てるのに気を良くしながら、彼の足は止まらない。かつて迷子になったブランシェット城よりも、賢者の魔法使いとなってすぐに招かれたグランヴェル城よりも、大きく立派に...
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緑雨葬

※夢主の死後その日は朝からずっと雨が降っていた。灰色の広がる空は思ったよりも明るく、隣に佇む青年の顔色の悪さがよく分かった。雨とは違う滴が彼の長い睫毛を濡らしては音もなく落ちていく。自然の恵みを受けて瑞々しく光る芝生を覆うように黒服の人々が...
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「はじめまして」

(幼少期)アリエッタにとって、父親を通して知り合ったヒースクリフは初めて出会う年の近い子どもだった。初めましてのとき、彼は女の子のように可愛らしい顔を赤く染めて夫人のドレスの後ろに隠れていた。「ほらヒース、隠れてないでご挨拶しましょう」母親...
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Shopping

ある日の昼下がり、ネロとアリエッタは買い出しのために栄光の街の市場を訪れていた。中心に大河が流れるそこでは貿易が盛んに行われている。色々な国の商品が店先に並んでおり食材も例外ではない。東の国でとれるエバーミルクを使ったチーズなどは二人ともに...