魔法使いの約束

魔法使いの約束

Happy Birthday To Heathcliff

「おはようございます、ヒース」「おはよう、エッタ」その日は雨の多いこの時期には貴重な晴間の日だった。少し蒸し暑くて開けた窓から入ってくる風がヒースクリフの前髪を心地好く揺らす。アリエッタが部屋に入ってくる前に起きていた彼は実は今日のことを考...
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Good morning , happening

ノックを三回して、相手の返事があってからドアノブに手を伸ばす。たとえ親しき中であってもマナーは守るべきだ。「シノ、入ってもいいですか?」「あぁ」小さく音を立てて扉を開き、飛び込んできた部屋の光景にアリエッタは絞り出すような声をあげた。「うわ...
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Blessing to you

その日の夜、熱の町へ行っていた魔法使い達が帰ってきた。帰ってきたばかりのシノを中心に、ブランシェットの三人は夕食後のサロンで会話に花を咲かせていた。話題は彼が向かった調査の内容である。起こっていた異変の内容や片目の無い白い狼、そしてその顛末...
魔法使いの約束

deep night

夜の森はまるで生きているみたいだ。大きな魔物の腹の中にいるように、ひとつひとつの気配がざわざわと揺れて不規則に動き回っている。何も知らない者からしてみればこの森は脅威と畏怖の対象でしかない。だが幼い頃から庭のように慣れ親しんだ者からしてみれ...
魔法使いの約束

Happy Birthday To Shino

それはとある日の夕食後、魔法舎の食堂の一角でのことだ。食べ終わったら少し残っていて、と幼馴染の少女に言われたシノが大人しく座って待っていると、厨房からアリエッタが大きなケーキを手に戻ってきた。彼女の顔ほどもある大きなケーキだ。お待たせしまし...
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for you

彼が胸に宿す野望の前では、私の声なんてどんなにちっぽけなものだろうか。私の心優しい主君は他者の機敏に敏い。ゆえに彼自身が苦しむことも多々あるが、それは誰もが持っている訳ではない彼の美点だと昔から思っている。だが、そんな美点のせいで彼の顔が曇...
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Fever

(なにか変だ)布団の中が異常に熱く、寝苦しさに意識が覚醒する。状況を確認するため身体へ信号を送ってみるが、関節が鈍く痛むだけで思い通りに動かない。吐いた息の熱さと頬のひりひりとした痛みに、ああ熱なのかと冷静に判断できた。ゆっくりと上体を起こ...
魔法使いの約束

rainy day

「ヒース、入りますね」ノックを二回、返事を待たずにドアノブに手を伸ばせば鍵の掛かっていないドアは軽い音を立てて内側へと開いた。廊下から一歩部屋へ足を踏み入れれば、早朝の僅かな騒めきさえも遠くなりひやりとした空気が身を包む。ベッドの上の布団の...
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Good morning , coworker

「お、はようございます……?」「おー」朝の陽射しが差し込む厨房、いつも通り朝食の支度をするために足を踏み入れたそこには昨日までにはない人影があった。神々しさすら感じられる陽光を浴びて佇むそのひとは昨日新しく召喚されたばかりの魔法使いのひとり...
魔法使いの約束

First impression

「ヒース! 無事だったんですね!!」橙色の髪を膨らませ、少女はヒースクリフを目掛けて一直線に駆けてくる。その勢いのまま彼の胸に飛び込む光景はさながら感動の再会を映した映画のワンシーンのようだった。しかし飛びつかれた本人はいきなりの衝撃に耐え...